最後の面会で食べた寿司の味

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最後の面会で食べた寿司の味

  海軍大尉  安達 卓也 命
  神風特別攻撃隊第一正気隊
  昭和二十年四月二十八日
  沖縄方面にて戦死
  兵庫県竹野町出身 東京帝国大学 二十三歳

 父に逢つた。母に逢つた。手を握り、眼をみつめ、三人の心は一つの世界に溶け込んだ。数十人の面會人の只中にあつて、三人の心の世界のみが私の心に映つた。遙かな旅の疲れの見える髪と眼のくぼみを、私は伏し拝みたい気持ちで見つめた。私の為に苦労をかけた老いが、父母の顔にありありと額の皺(しわ)にみられるやうな気がした。何も思ふ事が云へない。ただ表面をすべつてゐるにすぎないやうな皮相的な言葉が二言、三言口を出ただけであり、剰(あまつさ)へ思ふ事とは全然反対の言葉すら口に出やうとした。ただ時間の歩みのみが気になり、見つめる事、眼でつたはり合ふ事、眼は口に出し得ない事を云つて呉れた。
 母は私の手を取つて、凍傷をさすつて下さつた。私は入団以来始めてこの世界に安らかに憩(いこ)ひ、生まれたままの心になつてそのあたたかさをなつかしんだ。私はこの美しい父母の心、温かい愛あるが故に君の為に殉ずることが出来る。死すともこの心の世界に眠ることが出来るからだ。僅かに口にした母の心づくしは、私の生涯で最高の美味だった。涙と共にのみ込んだ心のこもった寿司の一片は、母の愛を口移しに伝へてくれた。
「母上、私の為に作つて下さつたこの愛の結晶をたとへ十分戴かなくとも、それ以上の心の糧を得ることが出来ました。父上の沈黙の言葉は、私の心にしつかりと刻みつけられてゐます。これで私は父母と共に戦ふことが出来ます。死すとも心の安住の世界を持つことが出来ます。」私は心からさう叫び続けた。
 戦の場、それはこの美しい感情の試煉の場だ。死はこの美しい愛の世界への復帰を意味するが故に、私は死を恐れる必要はない。ただ義務の完遂へ邁進するのみだ。
 一六〇〇、面会時間は切れた。再び団門をくぐつて出て行かれる父母の姿に、私は凝然として挙手の礼を送つた。
                              (後略)
                         【昭和三十八年三・四月?國神社社頭掲示】

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コメント1件

  1. 外 山 より:

     大事なこと程、言葉に出来ない。
     
     無言の中に篤い心が隠れて居ると想います。

     皇紀 2671年11月16日

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